妻が脳血管性認知症で入院していたある日。
いつものように入院病棟5階のエレベータを降りると、そこに着替え用のバッグを持ち、赤いカーディガンを羽織った妻が看護士に腕を掴まれて立っていた。
??・・・??・・・えっ?何だ何事があったのか?妻もこちらを見て立ち尽くした。
一瞬、どういう事態なのか全く把握できなかった。
妻に近寄り「どうしたの?こんな格好して、ダメだろ!」思わず大声で怒鳴ってしまった。妻「家へ帰るのよ。人前でそんな大声出さなくってもいいでしょ!」、私「ゴメン、でもまだ帰れないんだよ。病気が良くなったら帰れるからね」、妻「ちび達がまっているから帰るの」・・・『ちび』は、いないのだ。
妻の「記憶の衣」がまた一枚脱げ落ちた。
それまでも何度か「帰る支度」をしていて看護士なだめられていたようだ。
その日も、どうにかなだめすかして病室に戻らせた。
今までは他人事としていた「院内徘徊」を現実に目にした初めての衝撃的な経験だった。
看護士の話によると、病室を見回りに行ったら姿が見えなかったので、トイレかそのフロアのどこかにいるだろうと思って探したが、いくら探してもいない!大変だ!患者が消えた!
それからが大騒ぎ。フロアのスタッフはもちろん、各フロアのスタッフ総出で捜索が始まったのだ。
しかし、運良く(?)すぐに見つかった。1階ロビーにいたのだ。危うくもう少しで「外出(帰宅?)」してしまうところだった。
その日からベッドから離れると詰め所にアラーム知らせる機能を持ったセンサークリップをパジャマに付けられた。「拘束」へのカウントダウンが始まった。
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